筋解離術の適応と限界

 筋解離術は、筋肉や腱を延長する手術ですが、関節可動域が改善するだけでなく、筋緊張が改善し、股関節脱臼が改善する効果も期待できます。誰でも5歳で手術する派や何回にも分けて手術する派など色々なやり方があるようですが、患者さんの病状に合わせて適切な時期に適切な手術を最小限の回数で行うことが正解だと考えます。誰でも5歳に手術するわけではありませんが、5歳前後に手術を行うことが多いことには理由があります。1歳以降、徐々に筋緊張が強くなって、5歳前後で関節が硬くなってくることが多いことが一つ目の理由です。もう一つの理由は、脳が柔軟な年齢です。8歳以降になると、脳が柔軟性を失いはじめ、術後の筋バランスの変化を受け入れることに時間がかかることが多いです。結果的に5歳前後になることが多いですが、手術のタイミングは、関節拘縮が出てきて、運動機能が伸び悩んできた時期となり、必要であれば、待ちすぎず、脳が柔軟な年齢で行なったほうが術後の回復がスムーズです。手術を複数回に分けることには意味がなく、1回の手術で必要な部位は全て治療します。

 筋解離術は、股関節脱臼に対して効果がありますが、限界も報告されています。上のグラフは、筋解離術によって股関節の状態がどのように変化したかを報告しています。術前のMPが60%未満の症例では、ほぼ全例が悪化せずに経過しています。術前のMPが60%以上の症例では、術後悪化していることが多いです。この報告以外でも、MPが50〜60%を超える症例に対する筋解離術は成績が良くないとする報告が多いです。私の経験では、脱臼が重度であっても、7歳以下で、術後に外転装具の装着を徹底すれば、うまく治療できる症例もあります。術式の選択は、脱臼の程度や年齢、病状を考慮して、決定しますが、脱臼が重度であれば、骨盤や大腿骨の骨切り術を併用した方が良い場合が多いです。

 『うちの子は、腱切りですか?骨切りですか?』と聞かれることがあります。腱切りとは、筋解離術のことですが、筋肉のバランスを整える手術です。骨切りは、骨格を矯正する手術です。骨切り術だけを行なっている施設がありますが、治療成績はよくありません。筋解離術はすべての症例に行なった上で、さらに、追加で骨切り術を行うかどうかを検討すべきです。もちろん、すべての手技を1回の手術で安全に行います。