脳性麻痺における大腿骨の成長と大腿骨内反骨切り術の必要性

 脱臼が重度であったり、年長である場合、大腿骨内反骨切り術を行う必要があります。大腿骨を切って、曲げて、また、くっつけると聞くと、何かとんでもないことになってしまうようなイメージをされる方もおられます。麻痺性股関節脱臼に対して行う大腿骨内反骨切り術が行われる理由を解説します。

 赤ちゃんの時の大腿骨頚部は成人よりも外反が強いです。つまり、まっすぐに近い形状をしています。歩行が始まると徐々に大腿骨頚部は内反していき、10歳以上に成人と同程度の内反角度に落ち着きます。上の図のHSAは、大腿骨頭の成長軟骨と大腿骨の骨軸が成す角度のことで、大腿骨頚部の傾きの指標です。グラフの緑のラインが正常なHSAの変化であり、年齢とともにHSAは減少しています。つまり、大腿骨頚部の傾きが強くなって、股関節が安定していきます。黄色のラインが脳性麻痺患者さんのHSAの変化ですが、正常よりもHSAが大きい状態が続いています。すなわち、歩行ができず、股関節への荷重が少ないために、赤ちゃんの時の大腿骨頚部が真っ直ぐに近い状態(これを外反股と呼びます)が改善せず、股関節が不安定になりやすい骨格のまま成長しています。人間の股関節は出生前後が人生で最も不安定であると言われていますが、その不安定な股関節のまま大きさだけが大きくなっているのが、脳性麻痺患者さんの股関節であると言えます。

 上の図の左側の単純X線は正常な大腿骨ですが、大腿骨頚部が適度に内反しています。中央の単純X線は脳性麻痺患者さんの大腿骨ですが、まっすぐな形状をしています。右側の単純X線は大腿骨内反骨切り術を行なった大腿骨ですが、正常な大腿骨よりも強く内反しています。これらを見てわかるように、大腿骨内反骨切り術は、うまく成長できなかった大腿骨を正常な形態に近づけるための手術と言えます。脳性麻痺患者さんでは、大腿骨内反骨切り術を行なっても、残りの成長で、真っ直ぐな形態に戻ろうとすること(再外反と呼びます)があるので、手術では正常な大腿骨よりも強く内反させています。細かな角度設定が必要な手術ですので、経験豊富な小児整形外科医が執刀することが望ましいです。

(今後、ボバース記念病院の治療成績を掲載する予定です。)