Guided Growth(スクリュー1本で脱臼を治す治療)のエビデンス

 最近、『ネジを1本入れたら、股関節脱臼が治る治療を勧められたのですが、どうですか?』と相談を受けることが増えました。Guided Growth(成長調整)と呼ばれる治療法で、2016年に台湾から有効性が報告されています。その後、台湾から継続的な報告がされていますが、それ以外にはイタリアから報告があるくらいで、まだ報告が少ない治療法です。大規模なランダム化研究の報告はなく、全体の症例数も少ないので、まだまだエビデンスの確立されていない治療です。

 上の図の写真のように、大腿骨頭の骨端線の内側を貫通する形でスクリューを入れる手術を行います。4つの論文を読みましたが、全ての症例で、同時に、筋解離術を行っていました。図の2年後の単純X線を見ると、骨端線の向きが変わって、内反していることがわかります。術前に比較して、2年後の単純X線では、骨頭の形態が縦に長い楕円形になっています。再脱臼率は、4論文で、10〜45%となっています。MPが10%程度改善し、HSAが10%程度改善したと報告されています。どの治療方法と比較すべきかが難しいですが、筋解離術単独よりは治療成績は良く、筋解離術+骨盤・大腿骨骨切り術ほどは良くなさそうです。論文の執筆者は、筋解離術で整復された股関節脱臼の再発予防に役立つ治療法という位置付けで治療法を紹介しており、MP50〜60%を超える重度の亜脱臼・脱臼には、この治療を勧めていませんでした。MPが50%未満の症例では成績がよいとされていますが、100%治るわけではありません。大腿骨頭壊死や軟骨融解症、スクリュー破損、大腿骨頚部短縮、大腿骨頭変形などの合併症のリスクも少ないですが、あります。

 実は、ボバース記念病院の先輩医師は新しい治療にきちんとチャレンジしています。2016年の論文を読んで、患者さんと協議し、一部の症例にアレンジした治療法を行いました。上の図の症例は、股関節脱臼が重度であったため、単にスクリューを入れるだけでなく、大腿骨内反骨切り術を併用しています。写真aの術前に対して、写真bの術後では股関節がある程度整復されています。また、スクリューの1本が骨端線を貫いていることがわかります。写真cが最終の骨成熟時のものです。股関節は整復されていますが、大腿骨頭はまんまるではなく、楕円形になっており、黄色い矢印で示す通り、大腿骨頚部が短くなっています。よく見ると、一番上の図の論文でも同じ傾向があることがわかります。内側の骨端線の成長を抑制した結果、大腿骨は内反し、脱臼は改善しましたが、大腿骨頭が球形でなくなったり、大腿骨頚部が短くなるリスクがあることがわかりました。実は、再発した際に、大腿骨頭が球形でなかったり、大腿骨頚部が短いと、再手術が難しくなると実感しています。数例の症例の結果が似たような傾向であったため、ボバース記念病院では、この治療法を現在採用していません。うまくいけばいいけど、再発した時に厄介なことになるケースがある治療法だなという印象を受けています。

 この治療法は、筋解離術と比較すると良いですが、大腿骨内反骨切り術と比較するとどうでしょうか?上の図は、両麻痺性股関節脱臼に対して、両大腿骨内反骨切り術と右骨盤骨切り術、両下肢筋解離術を同時に行なった症例です。大腿骨きり術では、大腿骨を30〜45度内反させますから、写真aの術前に対して、写真bの術後では綺麗に整復されています。術後3年経過した写真cでも、股関節はきちんと整復されています。写真cをさらに詳しく見ると、大腿骨は再外反して、まっすぐに近づいています。これはよくある現象で、私たちは再外反を考慮して、骨切り術の際には強めに内反しています。もう一点注目すべきは、大腿骨頭の形態です。写真aの大腿骨頭はまんまるではなく、いびつな形をしていますが、写真cでは、大腿骨頭がまんまるになっています。これは、大腿骨内反骨切り術の効果というよりは、『股関節がきちんと整復されていること』と『股関節の可動域があらゆる方向に改善したこと』、『大腿骨頭がきちんと発育していること』という3つの条件が整ったためだと考えられます。Guided Growthでも最初の2条件はクリアできますが、3つ目の大腿骨頭の発育に偏りが出てしまう点がクリアできない可能性があります。

 筋解離術に骨盤・大腿骨骨切り術を併用する手術の方が治療成績は良いです。こちらの術式の方が圧倒的に難しいですから、結果は、小児整形外科医の技術に左右されます。ボバース記念病院では、骨盤・大腿骨切り術の技術を極め、安全に行えるので、現在、大腿骨頭に対するGuided Growthは行なっていません。あらゆる治療において、骨端線は簡単に傷つけるべきではないと考えています。

 手術を迷っておられる場合や手術内容に疑問がある場合、外来受診でもメールでもかまいませんので、ご相談ください。